murakamiのブログ

定年退職後の楽しき日々を綴ったエッセイです

煮干し

  五十半ばで包丁を握り始めてから十年ほど経っている。見よう見まねだから今でも腕は初心者と余り変わらない。しかし、妻が食事会などででかけた時も、夕食には困らないようになっており、誰よりも私自身が恩恵を蒙っている。

朝ごはん作りは完全に私の分担となった。夕食をしながら、鍋に昆布と煮干しを入れ水を注いでおく。翌朝には出汁が出ている。いわゆる「水出汁」である。朝、軽く加熱するが、加熱時間が少なくガス代の節約になる。

味噌汁を作ると出し殻煮干しが出る。長い間生ごみとして捨ててきた。何だか勿体ない気がしていた。何とかならないだろうか。五年ほど前に一工夫してみた。煮干しの頭と内臓を取り除く。これをすり鉢に入れて摩り下ろす。オリーブオイル少々と卵を加え、塩こしょうしてかき混ぜる。これを玉子焼きの要領で焼くのである。食べてみると、ぱさぱさした食感があるが食べられないことはない。問題は灰色がかった色をしており見た目がよくない。作っても妻は食べようとしないので、結局私が一人で酒の肴として食べていた。半年ほど続いただろうか。いつの間にか出し殻煮干しは再び生ごみとして出されるようになっていた。


今年の夏ごろ、出し殻煮干しを見ていて、何とかならないだろうかとの思いがまた頭をもたげた。アイディアを思いつかないのでインターネットで調べてみた。何件かのレシピが紹介されていた。その中の一つが簡単そうだ。

「頭、骨、内臓を取り除き、洗って、小鍋に入れて水をひたひたにしてしばらく煮る。

煮上がってきたら、オリーブオイル、ペペロンチーノミックス、刻みにんにくを加えて味を調える。」

たまたま家にペペロンチーノミックスがあったのでやってみた。しかし、腕が悪いのか余りおいしくない。二度目の挑戦もあえなく失敗した。一種の廃材利用だが、つくづく難しいものだと思い知らされた。


 三週間ほど前、東京の出版社の方からメールを貰った。

「コンスタントにエッセイを書いておられるので、ブログを始めたらいかがですか。ブログ作成をサポートするサイトもあり、割と簡単に始められますよ」


 紹介されたサイトを覗いてみると、私でもやってやれないことはなさそうだ。ブログの何かもまったく分からなかったがその日早速ブログを始めた。


 生まれて初めてブログを始めたので、他のブログを少しずつ眺めるようになった。世の中には大変な数のブログがあり、ほんとうに驚いている。そんな中で、料理中心のおもしろいブログに出会った。

「ゴハンエッセイ おいしい人生」

というブログである。ハヤシさんという方が運営している。シンプルな季節の折々の料理を紹介している。文章を読み、写真を見ているとよだれが出てくる。


(そうだ。ハヤシさんに出し殻煮干しの調理法を相談してみよう)

早速、ハヤシさんのブログにコメントを書き込み、同時に出し殻煮干しの調理法を相談した。三日ほど経って、調理法を書いた返信が掲載された。

一.出汁を取った煮干しは、水気を切り、ジッパーバッグに入れて冷凍保存する

二.一五〇グラム貯める

三.鍋に、しょうゆ・みりん 各大さじ 4~5杯 入れる

四.凍った煮干しを、やさしくほぐしながら鍋に加えて煮絡める


(なんとシンプルなんだろう!)

 毎日煮干しをジッパーバッグに入れて冷凍し、一五〇グラムになったところでやってみた。全調理時間、三〇分、できた!旨い!!


簡単で、おいしいので感動してしまった。以来、朝食はおいしい煮干し料理で炊き立て新米ご飯をいただき、気分のよい朝を過ごしている。そして夕食時、煮干し料理で日本酒ぬる燗「あさ開」を呑めば天国にいけるのです。


インターネットの福音です。お会いしたこともないハヤシさんと自然の恵み、かたくちいわしに心から感謝しています。




☆ハヤシさんのブログ 

http://gohanessay.blog136.fc2.com/?no=947


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映画を読む

 一九七三年にフレッド ジンネマン監督が「ジャッカルの日」を映画化してから四十一年たっている。二十年ほど前にこの映画を見て、実におもしろい作品だと思った。その後ビデオとDVDを購入して、これまでに六、七回見ている。何度見ても見飽きない映画である。

一九五四年に始まったアルジェリア戦争は泥沼状態に陥った。当時のフランスは第二次世界大戦の傷も癒えぬまま第一次インドシナ戦争にも敗退した惨状にあり、また相次ぐアルジェリア民族解放戦線の爆弾テロや残虐になる一方の戦争で厭戦感も広がり世論は分裂した。一九五八年、フランスではド・ゴールが大統領に就任した。アルジェリアの軍人や入植者の末裔(コロン)たちは、ド・ゴールが「フランス固有の国土」(アルジェリア)のための戦争に一層力を入れてくれると期待したが、ド・ゴールは戦費拡大による破綻寸前の財政などに鑑みアルジェリアの民族自決の支持を発表し、一九六二年に戦争は終結してしまった。

アルジェリアの現地軍人やコロン達は大混乱のうちにフランスに引き揚げた。彼らは秘密軍事組織を結成して「愛国者として」ド・ゴールに対するテロ活動を行ったが、現役のエリート軍人らによる暗殺計画はことごとく失敗し、組織の軍人達は逮捕され処刑された。


映画「ジャッカルの日」は、このような背景のもとに、秘密軍事組織に雇われたプロ暗殺者「ジャッカル」のド・ゴール暗殺未遂事件をドキュメンタリータッチで克明に描いている。

何度も見ている内に、この映画は他のものに較べて英語のせりふが聞き取りやすいような気がしてきた。といっても、日本語字幕を見ながら二、三割はききとれるかなという程度である。英語が分かったシーンは一段と映画のおもしろさが深くなる。スクリーンを見ながら英語に耳をそばだてるようになってきた。

When they tell me that the first $250,000 has been deposited,

I'll move, provided I'm ready.

「前金二五万ドル入り次第、行動開始する。期日は任せてほしい」

ジャッカルが暗殺を請け負う場面のせりふと日本語字幕である。「俺の準備ができていることが条件だが」というせりふを字幕は「期日は任せてほしい」と訳している。こなれた日本語訳だが、私はせりふの英語の方がはるかに迫力があると感じる。

(英語が分かるとおもしろさが倍加するのか。)

 DVDを見ながら、映画の最初から英語の書き取りを始めた。分からなければ何度も前に戻ってきいてみる。繰り返せばそれなりに分かるのだが、どうしても分からない部分が多くたちまち頓挫した。パソコンと格闘している内に、このDVDは日本語字幕だけでなく、英語字幕も出ることが分かった。英語字幕・・・ これは知らなかった。


 これを利用しない手はない。パソコンの設定を英語字幕にし、せりふを最初から紙に書き写し始めた。紙一杯になると、パソコンでエクセルファイル「シアター」に入力する。

It must be very light in weight and it must have a short barrel.

「軽くて 銃身はなるべく短く」

ジャッカルがイタリア ジェノアの銃職人を訪ねて、暗殺に使うライフル製造を秘密裡に依頼するシーンである。暗殺実行に向けて緻密に準備を重ねていく。せりふの書き写しが進むにつれて、物語の世界にぐいぐい引き込まれ始めた。英語字幕は日本語字幕より五割方詳しいので、新しい情報やより具体的な話に触れることになるからだろう。聞き取れれば字幕日本語より英語のせりふの方が迫力があるに決まっている。せりふを書き写しながら、これまで映画で感じたよりも遥かに大きな興奮を覚えていた。

 一か月書き写しを続けると、エクセルファイルは七百行を越し、最初から四十分の所まで進んだ。そこでDVDを英語字幕にして映画を見てみた。せりふは学習してあるから、さっと見れば読める。俳優たちの英語が百パーセント近く耳に届き、頭の中で日本語にしなくても理解できる。不思議なことにせりふが楽にきこえると画面のすみずみまで目が届くのだ。パリでの銀行強盗の場面では、背景の中央にエッフェル塔が立っている。俳優たちの声の調子、顔の表情もきめ細かに心に入ってくる。DVDを見始めてしばらく経つと、映画をみていることを忘れてしまった。私はウイーンやジェノアの街角に風を受けて立っていた。洋画をこんなに深く鑑賞できたのは人生で初めての経験だ。


  これまで日本映画に感動することはあったのだが、洋画を見るとどうしても言葉の壁を感じて、日本映画ほど感動することができなかった。近年のヴィデオ、パソコン技術の発達のお蔭で洋画の新しい鑑賞法を見付けることができたという気がする。ジャッカルの日を“読み終えたら”、かねてからじっくり見返したいと思っていた「アマデウス」や「ダラスの熱い日」なども読んでみたい。中学生時代から半世紀以上、こつこつと学んできた英語の出番がやってきた。


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